大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和46年(ネ)870号 判決

控訴人 柴沼松之助

右訴訟代理人弁護士 八木下繁一

同 八木下巽

被控訴人 山田芳太郎

被控訴人 内田仁吉

右両名訴訟代理人弁護士 小泉征一郎

同 白木義明

主文

本件控訴を棄却する。

当審において追加した控訴人の請求をいずれも棄却する。

控訴費用(当審において追加した請求について生じた費用を含む。)は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。(当審において請求を変更して、)、選択的に、(一)控訴人に対し、被控訴人山田芳太郎は、別紙目録一の(一)記載の各建物を、被控訴人内田仁吉は、同目録一の(二)記載の建物を、それぞれ収去して、同目録二の(一)記載の土地を明渡し、かつ、被控訴人山田芳太郎は、昭和三〇年五月二七日から明渡しずみにいたるまで一ケ月七二一円の割合による金員を支払え。もしくは、(二)被控訴人山田芳太郎は、控訴人に対し、同目録一の(一)及び(二)記載の各建物を収去して、同目録二の(一)記載の土地を明渡し、かつ、昭和三〇年五月二七日から明渡しずみにいたるまで一ケ月七二一円の割合による金員を支払え。被控訴人内田仁吉は、控訴人に対し、同目録一の(二)記載の建物から退去せよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、当審において予備的に請求を減縮して、「選択的に、(一)控訴人に対し、被控訴人山田芳太郎は、同目録一の(三)記載の各建物を、被控訴人内田仁吉は、同目録一の(四)記載の建物を、それぞれ収去して、同目録二の(二)記載の土地を明渡し、かつ、被控訴人山田芳太郎は、昭和三〇年五月二七日から明渡しずみにいたるまで一ケ月二七九円の割合による金員を支払え。もしくは、(二)被控訴人山田芳太郎は、控訴人に対し、同目録一の(三)及び(四)記載の各建物を収去して、同目録二の(二)記載の土地を明渡し、かつ、昭和三〇年五月二七日から明渡しずみにいたるまで一ケ月二七九円の割合による金員を支払え。被控訴人内田仁吉は、控訴人に対し、同目録一の(四)記載の建物から退去せよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決並びに予備的請求に対し棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

控訴代理人は、次のとおり述べた。

一、被控訴人山田は、別紙目録二の(一)記載の土地(以下本件土地という。)上に同目録一の(一)記載の各建物を、同じく被控訴人内田は、同目録一の(二)記載の建物を、もしくは、被控訴人山田が右建物のすべてを、所有して本件土地を占有している。

二、仮りに本件土地の一部である別紙目録二の(一)記載の土地のうち同目録二の(二)記載の土地以外の部分(同目録添付図面のロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、甲、ロの各点を順次結ぶ線で囲まれた部分、一三二坪)について被控訴人山田の占有権原があると認められるときは、請求を縮小して、それ以外の部分(同目録二の(二)記載の土地)の土地につき、地上建物の収去とそれによる右土地の明渡しを求める。即ち、被控訴人山田が別紙目録一の(三)記載の各建物を、被控訴人内田が同目録一の(四)記載の各建物を、もしくは被控訴人山田が右建物すべてを、所有して右土地を占有しているので、選択的に、被控訴人らに対しそれぞれ右所有建物の収去、右土地の明渡し、もしくは、被控訴人山田に対し右各建物の収去、右土地の明渡しを求める。

三、損害金月額七二一円は、本件土地の評価額二四万〇、四七六円に一、〇〇〇分の三を乗じて算出したものである(なお、原審において主張した月額七四一円は計算誤りにつき、上記の額に訂正する。)。月額二七九円は、右の割合により一三二坪の分を算出したものである。

被控訴代理人は、別紙目録一の(二)記載の建物は被控訴人山田の所有であって、銀行より融資を受ける必要から被控訴人内田の名義を借用したに過ぎないから、その敷地の転貸に当らないし、仮りに然らずとするも、被控訴人内田は、被控訴人山田の女婿で、生活の必要に迫られて右建物に居を構えているのであるから、賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合にあたり、解除権は発生しない、と述べた。

証拠〈省略〉。

理由

一、成立に争いのない甲第五号証、原審証人伊東龍音の証言(第一、二回)によれば、本件土地は、もと茨城県稲敷郡龍ケ崎町字光順田三、〇五〇番、田一反二畝二九歩であったが、昭和二二年八月一一日、宅地三八九坪と地目変更の登記がなされ、さらに昭和三三年三月四日、区画整理により字光順田二、九九二番と地番変更され、宅地三四〇坪となったこと、控訴人が肥料売掛代金債権の代物弁済により訴外武田正男より本件土地の所有権を取得し、昭和三〇年五月二七日所有権移転登記を経由していることが認められる。いずれも成立に争いのない甲第八号証、同第一〇号証、乙第三ないし五号証、原審証人山田明の証言、原審における被控訴人内田仁吉本人尋問の結果、当審における検証の結果並びに弁論の全趣旨によれば、

(1)本件土地上には、別紙目録一の(一)、(二)記載の各建物が存在し、同目録一の(一)記載の各建物はいずれも被控訴人山田の所有であること(右各建物が被控訴人山田の所有であることは当事者間に争いがない。)

(2)同目録一の(二)記載の建物も被控訴人山田が建築し、同人の所有に属するものであるが、同人が昭和三五年六月頃訴外株式会社茨城相互銀行から融資を受け、被控訴人内田が右債務を保証するに際して、銀行側の要求により、被控訴人内田名義で所有権保存登記を経由したにすぎず、債務返済後昭和三八年七月二日、元に返えす意味で、被控訴人山田に所有権移転登記をしたこと

が認められ、右認定を左右する証拠はない。控訴人は、右被控訴人山田への所有権移転登記手続は虚偽表示に基づくものであると主張するが、前認定のとおり、右建物は当初から被控訴人山田の所有であり、被控訴人内田に所有権は移転されなかったのであって、右登記手続は単に登記を実体関係に符合させるためになされたにすぎないのであるから、これをもって右建物が被控訴人山田の所有であるとの前記認定を左右することはできないものといわなければならない。そして被控訴人山田が別紙目録一の(一)記載の建物に、被控訴人内田が同目録一の(二)記載の建物にそれぞれ居住していることは、当事者間に争いがない(なお、前掲各証拠によれば、別紙目録一の(一)記載の各建物のうち、Aの建物は、原判決添付第二目録(一)記載の各建物のうち1、3の建物、Bの建物は、同じく2の建物、Cの建物は、同じく6、4の建物、Eの建物は、同じく7の建物、Fの建物は、同じく5の建物に当り、別紙目録一の(二)記載の建物は、原判決添付第二目録(二)記載の建物に該当することが認められる。)

二、そこで被控訴人らの抗弁について判断する。被控訴人らは、被控訴人山田が本件土地全部を訴外武田正男から賃借したと主張するのに対し、控訴人は、右賃借したのは、本件土地の一部一三二坪余にすぎないと主張する。前掲乙第三号証、原審証人渡辺治の証言により成立が認められる甲第二号証、原審証人武田正男、同山田明、原審及び当審証人渡辺治の各証言並びに当審における検証の結果によれば、

(1)被控訴人山田は、昭和一五年訴外武田正男の親権者である訴外武田安から当時田であった本件土地全部を埋立てて、木造家屋所有の目的で期限の定めなく賃借したこと

(2)同被控訴人は、右賃借後直ちに別紙目録一の(一)B記載の建物、ついで同目録一の(二)記載の建物を建築し、その後同目録一の(一)記載のその余の建物を順次建築し、前記同目録一の(一)B記載の建物については昭和二八年八月一〇日所有権保存登記を経由したこと、

(3)昭和三〇年五月頃本件土地を測量した当時、本件土地の南西部分には別紙目録一の(一)B記載の建物があり、南東部分には野菜が作ってあり、北東部分には同目録一の(二)記載の建物及びメツキ工場があり、北西部分は空地であったこと

以上の事実が認められ、甲第一号証の一、二、同第二、三号証の各記載中並びに原審及び当審証人伊東龍音(原審は第一、二回)の証言中右認定に反する部分は、前記各証拠と対比して借信し難く、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

以上認定事実によれば、被控訴人山田は、本件土地全部を昭和一五年に訴外武田正男から建物所有の目的で賃借し、控訴人が同訴外人から本件土地の所有権を取得した昭和三〇年五月二七日以前に本件土地上に登記した建物を有していたのであるから、右賃借権をもって控訴人に対抗することができる。そして本件土地は一筆であるところ、一筆の借地の上に数棟建物が存する場合、そのうち一棟につき登記がなされておれば、建物保護法第一条により対抗できる借地権の範囲は、単に右登記建物の敷地部分に限らず、一筆全体に及ぶと解すべきである。

三、控訴人は、被控訴人山田が別紙目録一の(二)記載の建物の敷地部分を無断で被控訴人内田に転貸したことを理由に本件土地の賃貸借契約を解除したと主張するが、右建物は建築当初から引続き被控訴人山田の所有であって、被控訴人内田に所有権が移転されたことがなく、従ってその敷地部分の転貸の事実のないことは前認定のとおりであるから、控訴人の右主張は理由がない。

四、以上の次第であるから、控訴人の各本位的請求及び各予備的請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないから棄却すべきである。

よって、右と同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、当審において追加した請求をいずれも棄却することとし、民事訴訟法第三八四条第一項第九五条第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石田哲一 裁判官 小林定人 関口文吉)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例